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『紡ぎ繋ぐ・・・』ケース②

以下のケースは、私達が介入した複数の実在ケースをプライバシー保護の観点から一度細断し、再構築した形となっております。

【ケース②】

95歳女性。岩倉在住。独居生活。弟様がいるようだが音信不通。 
自宅で転倒。体動困難になっているところを近隣住民に発見され市内にある三次救急病院に搬送。
当院には、搬送翌日に転院依頼があり受け入れ。右大腿骨頸部骨折でOPE目的での入院となる。
介護保険は認定切れ(かつて要支援1)。入院後申請し、のちに要介護3の認定が下りる。
入院時長谷川式15点

PHASE①  「現状の把握」

OPE対象でのご転院でしたが、ご高齢で本人様にも認知が疑われることから、本人様含めた協議の結果、治療としては保存的加療の方針になりました。
転院後1か月してからのADLは歩行器を使用しての歩行も、後方からの介助が必要な状況。排泄に関してはベッドサイドポータブルへの移乗がやっとの状況でした。
ADL低下の阻害要因は、長期臥床による筋力低下が一因とセラピストは評価をしており、今後の見通しとしても超高齢であることから、自立歩行は厳しい、在宅での生活となると転倒の危険性が高いとの評価でした。
その状況から医療ソーシャルワーカーとしては介護保険申請の手続きを実施し、また「施設入所」を視野に御本人様にお話しをしてみました。

PHASE② 「御本人の想いと現状との差異」

しかしご本人様の気持ちはあくまでも「自宅に帰る」気持ちが強いようでした。
自宅に帰りたい理由としては、「小さなアパートだけど、実母をその家で看取った。だから自分にとっては強い思い入れがある」「母を看取ってからは一人で頑張って生活してきた。」「他のところで暮らしたことなんかないし、これからも家以外の場所に行く気もない」「帰っても困ることなんかない、だから家に帰して欲しい」とのご発言でした。
さらに介護サービスの利用についても「デイサービスなんか行きたくない」「気をつかってしまい疲れてしまうに決まっている」「ヘルパーさんなんかにも家に来てほしくない」とサービスについても消極的な姿勢でした。

PHASE③ 「実際的場面での評価を実施」

そこで一度担当セラピストと共にHE(家屋評価)を実施してみました。
しかしやはり想像通り自宅内での歩行は非常に危険な状況でした。評価としてはベッド周囲での生活に完結し、排泄はポータブルトイレを設置すること。それでも転倒の危険性はゼロにはならないとの評価でした。
ご本人は実際的な場面を経験してもなお、自宅に帰ることに気持ちの揺るぎはありませんでした。
御本人様への生活歴の聞き取りの中から、「幼少期にご両親が離婚され、他県から母一人子一人で今の土地に転居してきた。」「今までいろんなことがありお金にも苦労した」「実母を介護して看取ってきたので、これからは自分の人生を楽しもうと思っていた。」といった発言が再度あり、それが自宅退院を強く希望する理由のようにも感じました。

PHASE④ 「院内のカンファレンスで方向性を今一度模索」

「御本人の希望」を叶えてさしあげたい一方で、「生活する上でのリスク」との間でなかなか着地点が見つけられずにいました。
院内カンファレンスの中では「退院したとしても転倒してしまう。それで病院が責任を負えるのか」といった意見や、「御本人のためには施設に入った方が良い」「認知症があって適切な判断ができていないから家に帰るのは止めた方が良い」といった意見が大半を占めました。
しかし主治医から「長谷川式のスコアからは、まだ意思決定能力が残存している」といったことに加えて、「リスクを犯す権利も御本人の中にはあるはずだ」といった意見もスタッフの中からは出ました。
そこで、御本人様を中心とした意思決定確認の為のカンファレンスを再度開催しました。
その中で、御本人様は自宅に対する強い思いを表出されましたが、サービスに対しての拒否は相変わらずでした。そこで当院からの折衷案として、デイに通所する必要はないが、安否確認の為の毎日のヘルパーの訪問だけは…との事でご了解を頂きました。

PHASE⑤ 「希望叶って退院も、すぐに再入院」

新規でケアマネージャーさんをつけ、毎日のヘルパーさんの手配も無事終了し自宅退院といった運びになりました。自宅に戻ってから、すぐに実母の御仏壇に御線香をあげておられる姿が印象に残っています。
しかし退院されてから3日目の朝、ヘルパーさんが訪問するとベッド下で動けなくなっているところを発見され、当院に再入院となりました。
再入院後、すぐに本人面談を実施しました。
「また自宅退院を強く希望されるのだろう」と予測していましたが、それには反して御本人様の口から出た言葉は、「もうあんな惨めな思いはしたくはない。夜中に動けなくなってから朝までが心細かった」「結局家に帰っても何もできなかった」と、我々の予想に反する答えが返ってきました。
本人意志を最大限尊重しリスクある中で自宅退院をして頂きました。が、結果としてその手続きが御本人様の意思決定を大きく進めていく結果となりました。

PHASE⑥ 「地域の中で支えていく」

介護施設を見つけるにあたり、成年後見人の手続きに着手していきました。さらに施設については要介護3の認定が出ていたことから、長期療養のできる特別養護老人ホームへの入所を検討していきました。
施設の空き状況もある中で、どの施設を選定するかについては、御本人様とのお話しあいの中で検討していきました。
自宅に強い拘りをもっておられたことも勿論ですが、長年岩倉の土地でお住まいであったことも踏まえると、当院も含めてこの「地域」の中で何とか御本人様を支えていくことができないか…といった想いに駆られました。
そのような視点から、近隣の施設に依頼をさせていただきました。いずれ御病気になられ、また当院に戻ってこられるかもしれない。そしてまたお元気になって施設にお世話になるかもしれない。そんな過程をこの地域で支えていけたら…と感じています。
幸い現在は後見人さんもつき、近隣の介護施設に入所され安らかな日々を送っておられます。

【私達が目指すもの】

今まで患者様の歩んでこられた生活の中の「息づかい」や「匂い」。そこに寄り添いつつ(紡ぎ)、そこから生まれる価値観に共感し、患者様の「これから」を一緒になって考えていきたいと考えています。(=繋ぐ)

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