【ケース①】
70歳男性。岩倉在住。独居生活。身寄り無し。生活保護受給中。
近医から肺炎疑いで当院に入院。入院前ADLは自立。よって介護保険は未申請。
入院中の検査にて肺癌が見つかり、その後肝臓にも転移が見つかる。
予後の見立てとしては約6か月と診断。
徐々に経口からの摂取量低下した為に医療行為としては点滴が必要となる。
御本人様は突然の事で現状の受け止めができず。
身寄りも全くないことから治療方針等の意志決定が進まない状況に。
PHASE① 「一歩を踏み出すための関係作り…」
なによりもまず、患者様と関係性を築くことからはじめました。
元々内向的なご性格のようで病状の受け止めもできず、落ち込み塞ぎこんしまう日々が病棟でも続いていました。スタッフが訪室しても、自発的にお話しされることもほとんどありませんでした。
そのため治療方針も定まらず、ただただ時間だけが過ぎていきました。
医療ソーシャルワーカーの介入としては、「制度の話し」や「病気のこと」は意図的に触れることなく、日常の会話や世間話しをすることを心掛けました。
それは「病院のスタッフ」ではなく「一人のヒト」として関わることでご本人様との距離を少しでも縮められないかと考えたからです。
時間はかかりましたが、徐々に関係性が構築できてからは、日常の関わりの中から「突然のことでびっくりした…」「また歩けるようになれるかな…」「家のこと何もせずに入院になってしまった」といった言葉が出てくるようになりました。
患者様は、明確に「○○したい」といった希望はなかなか口にされませんでしたが、表出された言葉一つ一つから、患者様の漠然とした「希望の輪郭」を浮かびあがらせました。
そうした「希望の輪郭」から、その中核にあるものは「サービスを整えて家に帰してあげることではないか」と私たちはアセスメントをしました。
PHASE② 「制度や支援の紹介」
御本人様の機微な心情変化に注意しながら、ご自宅に戻るための準備を始めていきました。
活用した制度としては介護保険制度に加えて、将来的に意思決定困難になった時のことを想定して成年後見人制度の手続きも同時に進めていきました。
介護保険を利用されることも初めてであったことから、制度の説明やケアマネージャーさん始め支援者の方々の紹介を進める中で、ご本人様のお気持ちも徐々に明確になるのが分かりました。
「家に帰ってから焼肉を食べたいな…」「冷蔵庫の中の卵捨てないと…」「アパートの階段は登りきる自信がない…」といった具体的な要望や現実的不安も口にされるようになりました。
PHASE③ 「地域の中で支えていくために…」
退院に向けたカンファレンスを開催する中で、思いつく限りの多くの方にお声を掛けました。
結果、カンファレンスには、ホームドクターさん・訪問看護師さん・ケアマネージャーさん・生活保護ワーカーさん・健康長寿推進課さん・地域包括支援センターさん・民生委員さんたちが参加してくださいました。(地域ケア会議)
たくさんの方にご参加していただいた理由として、おそらく病状的に今後意思決定ができない時期が必ずやってくる。御本人様には身寄りもないことから、その時に「御本人の生き方」を決定することをゆだねるキーパーソンも誰ひとりとして居ない。
そのため、「現状の想い」や「これからの不安」を、支援者の皆さんに共有していただきたい、このような方が「地域の中で暮らしている」といった事実を皆様に共有していただきたいといった想いがありました。
PHASE④ 「自宅退院」
ケアマネージャーさん訪問日に合わせて退院の日を調整致しました。
退院の際には当院のスタッフが自宅まで付き添いました。
道中、スーパーで食材を購入されました。独居であるにも関わらず、買い物カートが一杯になるまでお買い物をされる姿をみて、本当に家に帰せて良かったと感じました。
予想した通り自宅までの階段の昇降はできませんでしたが、自宅ベッドに横になれた時に「やっと家に帰れた…」の一声が印象的でした。
その後在宅で様々なことがあったようですが、ご退院されて3週間、自宅で体動困難になっているところをヘルパーさんに発見され、近隣医療機関に搬送され、そのままご逝去されました。
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